鳥海山 伏流水
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旅先で見つけた名産品
遊佐から世界に挑戦するウイスキー
インタビュー
佐々木雅晴さん(株式会社金龍 代表取締役社長 兼 遊佐蒸溜所長)
――山形県・遊佐町でウイスキー造りを始められた経緯をお聞かせください。
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佐々木雅晴社長(以下、佐々木)
山形県酒田市内の清酒メーカーで社長を務めていましたが、そちらを引退した頃に、酒田市と遊佐町にある日本酒メーカー9社が共同でつくった酒造会社・金龍からお誘いを受け、常務として入社しました。その後社長に就任し、そのときからウイスキーを造り始めました。金龍は焼酎の会社でしたが、新たな事業としてウイスキー造りに挑戦したのです。私たちにはもろみの管理や蒸留の経験があり、難しい酒税も理解できます。ないのは樽に詰めて熟成する経験だけでしたから、参入はしやすくビジネスとして成功すると判断したのです。女性2名、男性1名のスタッフでスタートし、国内の蒸溜所へ研修に赴いたり、スコットランドの蒸溜所に視察に行ったりしてノウハウを学びました。
――なぜ、遊佐町に蒸溜所を構えたのですか?
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佐々木
一番の理由は、鳥海山を源とする湧水の存在です。質のいい水がたくさん湧き出すのです。ウイスキー造りには大量の水を必要とします。とくに、蒸留中に使う冷却水は1時間に30トン。地中深くに井戸を掘って汲み上げた地下水を使っています。ウイスキーを仕込むための水は、水道水から塩素を除去して使っています。ちなみに、遊佐の水道水は湧水を利用しています。
――製造工程に、ウイスキーに水を加えて度数を調整する「加水」がありますが、遊佐蒸溜所ではどのタイミングで加水されますか?
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佐々木
樽詰めの直前と、瓶詰めの直前の2回行います。1回目は63.5パーセントに、2回目は55や51パーセントなど商品に合わせた度数に調整します。加水に使う水は仕込み水と同様、塩素を除去した水です。加水することでウイスキーの香りが開き、華やかになります。
――遊佐蒸溜所ならではの製造方法はありますか?
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佐々木
私たちはスコットランドの伝統的な製法に従ってウイスキーを造っています。たとえば木製の発酵槽は保温性に優れ、乳酸菌が棲みついて発酵にいい影響を与えます。熟成には、土間の上に木のレールを敷き、その上に樽を積み上げるダンネージ方式を採用して適切な湿度を保ちます。原料の麦芽も酵母もスコットランドから輸入し、酵母は空輸後、成田空港から冷凍コンテナ車で運んでいます。
――製法にこだわった結果、デビュー作が「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)2022」で見事にGOLDを受賞されました。
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佐々木
正直、蒸留直後はこれでいいのかどうか、熟成させるとどんな香りと味になるのか、想像もつきませんでした。自分がおいしいと感じた原酒だけを厳選しました。ただ、指導してくれたスコットランドの技術者は質の高さに驚いていましたし、ロンドンにあるウイスキーマガジン社の取材でも、「これはすごい」と記事に書いてくれましたから、いいウイスキーができたに違いないと。GOLDをいただいたことで安心し、弾みがつきました。
――今後、どんな蒸溜所にしていきたいですか?
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佐々木
製品エンブレムの中央にある盾では、遊佐の風土を表現し、冬の大雪、暴風、荒波を描き、自然の厳しさに妥協せずにウイスキーを造るという思いを込めています。盾の上、中央にはチョウカイフスマを描いています。鳥海山の頂上付近の厳しい環境で生きる高山植物で、夏に可憐な花を咲かせます。小さくてもキラリと光る、世界に一つしかない蒸溜所になり、遊佐という地名を世界に知らしめたいです。
遊佐蒸溜所
*蒸溜所では、一般見学を行っておりません。
写真●津留崎徹花 文●松井健太郎 コーディネート●中野りつ(乾物ミライスト、鶴岡ふうどガイド)