水が生きる乾物のおいしいレシピ

教えてくれた人 井澤由美子

山形遊佐御膳 左上から/干し柿の発酵くるみバター いくらの出汁漬けゆず風味 黒豆くろもじ養生茶 ほうれん草と干し柿の白和え お揚げと赤こごみの炒め煮 枝豆と割り干し大根のお漬け物 天然わらびのほうじ茶飯 鮭と遊佐野菜のいお汁

遊佐町や山形県に伝わる山、川、海の乾物や塩蔵品を使った料理を、井澤由美子さんが家庭で簡単に作れるようなレシピとして考案。おいしさの決め手の一つとなる水を生かした料理をお楽しみください。

普段使いの乾物で良いこと尽くし

交通が発達していなかった昔、遊佐の冬は雪に閉ざされ、陸の孤島と化すこともあったそうです。荒天の日は漁船も出られないため、店頭から新鮮な魚や野菜が消え、保存のきく乾物や塩蔵品ばかりが棚に並んだと地元の女性から聞きました。
乾物は遊佐に限らず、日本の食文化。ただ昔より食べる機会は減り、「戸棚で眠っている」という方もいるかもしれません。でも、米もパスタも乾物と考えたら、切り干し大根や干しワラビなども難しい食品ではないはず。ぜひ日常使いしてください。
とくに天日干しされた乾物は、生よりも栄養価が高いものもあります。食べきれない野菜を天日干しすれば、食品ロスを防ぐことにもつながります。また、保存がきくので防災食としてストックしておくこともできます。乾物は価値ある食べ物。もっと見直されていいはずです。そんな思いを込めて御膳を作りました。
乾物はたくさんの水を吸収するので、安全でおいしい浄水器の水を使って戻すことをおすすめします。

御膳の着想を得た「大黒様」の話

庄内地方には、七福神の一柱(いちはしら)で食を司る神である大黒天を祀(まつ)る行事があります。大黒天が妻を迎える夜とされている12月9日に行われる「大黒様のお歳夜(としや)」です。五穀豊穣や子孫繁栄を祈願して、豆料理や大根料理、ハタハタをいただきます。昔ながらの行事とともに、乾物料理も家いえで受け継がれているようです。そんな大黒様から着想を得て、乾物料理も盛り込みながら作った御膳です。

乾物について

乾物はその土地の山の恵み、海の恵みを季節を問わず、味わいいただくために生まれた知恵。干すとうまみが凝縮したり栄養価が高くなったりするものもたくさん。

割り干し大根や干し柿、黒豆、ワラビ、干しシイタケなどの山の乾物。

鮭とばをはじめ、タコや切り昆布、アオサといった海や川の乾物。

天然わらびのほうじ茶飯

良質な天然の山菜が多く出回る山形。春先に収穫した山菜を天日干しで乾燥させ、年間を通して楽しむことができます。水煮に比べて干しワラビはひと手間かかりますが、風味や食感がよく、ワラビの持つ滋味豊かな奥深い味わいをしっかりと堪能できます。
いい水でふっくらと戻した山菜は、畑の野菜とは違ったうまみが感じられます。煮物や和え物にも向き、今回の炊き込みご飯のように、お米に味をなじませる料理も格別です。

材料(2~3人分)

米…… 2合
干しワラビ(天然)…… 30~40g
ほうじ茶…… 380cc
切り昆布……大さじ2
醤油・みりん……各大さじ1~1半
粗塩・胡麻油・すり黒胡麻……各少々

◎作り方

  1. まず、干しワラビの下処理を行う。大きめの鍋に水を多めに入れ、70~80℃になったら火を止めてワラビを入れ、箸でかき混ぜて4~5分置く。水を加え、手が入れられるくらいの温度になったら手でよくもんでアクや汚れを取り、ザルに上げる。鍋に新しく水を入れて火にかけ、50℃ほどになったらワラビを入れて火を止め一晩置く。水が茶色になれば水を替える。まだ硬い場合は、40℃ほどの湯に浸けて戻す。翌日、戻したワラビを3cmの長さに切る。
  2. 米を洗い、1時間ほど水に浸けてザルに上げる。濃いめのほうじ茶を別に作っておく。
  3. 小鍋に1のワラビと醤油、みりん、塩を加え、中火で煮からめて最後に胡麻油を加えてなじませる。
  4. 土鍋に2で洗った米とほうじ茶、3のワラビを入れ、ふたをして強火にかける。沸騰してきたら弱火にして、10~13分炊いて火を止め、 5分蒸らす。しゃもじで切るように全体をさっくりと混ぜ、器によそってすり黒胡麻を振る。

Point!

乾物は干した時間と同じ時 間、水に浸けて戻すとよいといわれています。おいしい水を使ってゆっくりと戻しましょう。また、ワラビの代わりに、切り干し大根やひじきなど戸棚にあるほかの乾物を利用してもおいしい炊き込みご飯ができあがります。

鮭と遊佐野菜のいお汁

遊佐ではサケのことを「いお」と呼ぶそうです。「いお」は魚(うお)がなまったもので、サケが親しまれていることの証しでしょう。
「いお汁」は、サケに旬の野菜を加えてコトコトとやさしく煮ます。味わい深いお椀は栄養価も高く、高価な食材を使わず作れる心と体が温まるごちそうです。鮮度のいいサケのアラなどを見かけたら、ぜひ作ってみてください。日本の軟水は乾物の昆布と相性が良く、また、カブやダイコン、サトイモやジャガイモなど好みの野菜を加えると、甘みも出てさらにおいしくなります。

材料(3~4人分)

サケの切り身……半身分
カブ(大)……2~3個
長ネギ……1本
サトイモ……6~7個
ショウガ皮付き薄切り……5枚昆布……5×5cm程度
粗塩……適量
イクラ……好みの量
【A】
酒……半カップ
合わせ味噌……大さじ3~好みで増量

◎作り方

  1. 昆布は1カップの水に浸しておく。ボウルにサケの切り身を入れ、粗塩を多めにまぶしてなじませ1時間から一晩置く。その後熱湯にさっとくぐらせ、流水で洗いながらうろこや血あいを取る。カブは乱切りにし、長ネギは小口切り、サトイモは皮をむいて食べやすい大きさに切る。
  2. 大きめの鍋に1の材料とショウガをすべて入れ、かぶるくらいの水を注いで強火にかける。煮立ったら弱火にし、アクが出たら取り除く。
  3. フタをずらして20~30分ほど煮て、Aを溶き入れ、味をみる。味噌を増やしてもいいし、好みで塩か醤油で味を調え、さらに5~6分煮る。
  4. お椀に盛り、好みで刻みネギやイクラを天盛りにする。

Point!

サケの切り身に粗塩を多めにまぶし、しばらくおく。熱湯にさっとくぐらせて流水で洗うことで、くさみのない「いお汁」ができます。サケを野菜の上にのせるのは煮崩れしにくくするため。

黒豆くろもじ養生茶と干し柿の発酵くるみバター

黒豆に含まれるポリフェノールは水に溶けやすく、老化防止に効果的。鉄分も豊富で、血流を促進して体を温め、目の疲れにも効果が期待できます。クロモジは抗菌作用や抗ウイルス活性などの効能が期待できるほか、健胃薬としても知られています。
黒豆茶はノンカフェインなので、お休み前やリラックスタイムにも気軽に飲めます。お茶うけには干し柿と地元産のクルミを使ったベストマリアージュの簡単おやつを添えました。お茶を煮出した後の黒豆はサラダや煮物にも使えます。

黒豆くろもじ養生茶

材料

黒豆……半カップ分
粉砕されたクロモジ……好みの量

◎作り方

  1. 黒豆を1時間ほど水で戻したら水分を拭き取り、フライパンへ。中弱火で揺すりながら黒い皮が弾けるまで 8~10分ほどからいりする。
  2. やかんに1とクロモジを入れて水を注ぎ、弱火で15分ほど煮出す。

Point!

豆の黒い皮が弾けるくらいまでフライパンでいることで、黒豆の香ばしさをお茶に移すことができます。ほんのりとした甘味も、気分をほっとさせてくれるでしょう。

干し柿の発酵くるみバター

材料

干し柿……2個
発酵バター……大さじ1半~2
クルミ・ユズの皮……適宜

◎作り方

  1. 発酵バターは室温に戻し、砕いたクルミとユズの皮を加えて混ぜておく。バターを室温に戻す時は、耐熱容器にいれラップをせずに600wのレンジに30~50秒かけ指で押して柔らかくなればOK。かけすぎに注意します。バターの代わりにクリームチーズでも○。その場合はひとつまみの塩を加えて。
  2. 干し柿はヘタを取り、縦半分に切り込みを入れて開き、ラップをかぶせて手で平らにのばす。
  3. 2に1を半量ずつのせ、手前からくるくると巻き、バターが固まるまで冷蔵庫で30分以上冷やす。好みの薄さに切って器に盛る。

撮影に協力してくださった遊佐町の古刹、永泉寺(ようせんじ)。老杉や古松、苔石に囲まれた参道が美しい。住職が住む庫裏(くり)の薪ストーブがある台所 をお借りして料理をしました。
曹洞宗 剣龍山 永泉寺

取材めしとつぶやき

撮影中、黒豆の炊き立てごはんを塩むすびにして、撮影を終えた「いお汁」とともにいただきました。また、撮影中に遊佐町で伝統野菜をつくる「まえむき。」さんに、野菜などの差し入れをいただきました。ありがとうございました。

写真●津留崎徹花 文●松井健太郎 コーディネート●中野りつ(乾物ミライスト、鶴岡ふうどガイド)

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