旭岳(大雪山)
Vol.2
北海道・東川町

大雪山連峰の主峰であり北海道の最高峰である旭岳には、春から秋にかけては山頂を求め登山する人や、冬はパウダースノーを求めて多くのスキーヤーやスノーボーダーが訪れます。大雪山旭岳ロープウェイに乗って標高約1,600メートルに位置する姿見駅(すがたみえき)で降りると、そこには絶え間なく水蒸気を噴き上げる噴気孔と山頂の大風景が広がります。
そんな旭岳の麓に大雪山系の山々の恵みを受ける東川町があります。旭川空港にも近く、北海道の中央付近に位置するこの町は、道内で唯一上水道がなく、人々は湧き出る豊かな伏流水とともに暮らしを営んでいます。
大雪山系の山々に降った雪や雨は地下に潜り、長い年月をかけて湧き出します。東川町では、生活用水はもとより、米どころとしても有名な地元の農業にこの水を利用しているのです。全国的に地方の過疎化が問題になるなか、豊かな自然の恵みが享受できる東川町には移住者が増え続けています。
雄大な山と豊かな水と人がつながる、北海道の真ん中にある町を訪れました。
標高1,600mに位置する大雪山旭岳ロープウェイの姿見駅周辺では、みずみずしく輝く高山植物の姿を見ることができる。
Vol. 2 めいすいの旅 北海道・東川町
山と水と人がつながる町
水が生まれるプロセスの一つに湧水がある。山に降り注いだ雪や雨が地中を旅し、やがて清らかな水となって湧き出すように、山と水とは密接な関係にある。そんな雄大な山と豊かな水の恩恵を受ける東川町を訪ねた。
北海道の最高峰、旭岳(大雪山)。その麓には約8,400人が暮らす東川町がある。
旭岳に降り積もった雪や雨は何百年もの時をかけて地層でろ過されると、地下水となって東川町に暮らす人々のもとに届く。山と人が時を経て水を通してつながるなんて、なんと豊かな土地だろうか。その東川町には水の恵みとこの土地の自然に魅せられた人たちが住んでいる。

旭岳の麓にある大雪旭岳源水公園では絶え間なく水が湧き出していた。1分間に約4,600Lの湧出量だという。
「うちは4代続く豆腐屋で、初代は開拓の頃に北海道に来て、一度名古屋に行ったものの北海道に戻ってきて東川町に住み着いたのですが、それはいい水を求めてのことだと聞いています」。旭岳を主峰とする大雪山系の伏流水を使って豆腐を作る『宮崎豆腐店』の宮崎伸二(みやざき しんじ)さんはそう話してくれた。豆腐の約90パーセントは水というように、豆腐は水の恵みそのものなのだ。初代が納得のいく水を求めた結果、この地にたどり着いたという物語はとても納得できる。
「昔ながらの手作り豆腐を味わってください」と宮崎伸二さん。
1927(昭和2)年の創業以来変わらぬ製法で作られる木綿豆腐は硬めの食感で濃厚な味わい。
宮崎豆腐店 住所:北海道上川郡東川町東町1-1-18/TEL:0166-82-2543
「町に地下水があることを誇りに思います。町外で水道水を飲んだときにおいしくないと思う感覚は小さな頃からありましたね」。『居酒屋りしり』店主の中竹英仁(なかたけ ひでと)さんは東川町で生まれ育ち、一度町外に出たが2005年に戻り、両親が営んでいた店を引き継いだ。「札幌から帰ってきたときに、料理の腕が上がったかと思うくらいでした。煮炊きする水だけでなく、食材を洗う水やさらす水などすべてが天然水ということが料理の味に大きく影響するのです」と中竹さんはそう語る。町を一度離れたことで東川町の豊かさに気づいたのだろう。
2代目主人の中竹英仁さん。
シンプルながら人気メニューの一つである「塩むすび」は、豊かな大地が育てた東川米をこの地の水で炊いた逸品。
中竹さんがこだわる新鮮な食材は北海道各地から集まる。北海道のほぼ中央に位置する東川町ならではの利点だ。
居酒屋りしり 住所:北海道上川郡東川町東町1-6-14/TEL:0166-82-4088
東川町のもう一つの顔として、木工家具の工房が多いということがある。家族も含めると町民の約40パーセントが木工家具産業に関係しているそうだ。「大雪山系などの高品質な木材が手に入る産地が近いことが大きな理由ですね。東川町には個人でやっているクラフツマンが多いことも特徴です」と言うのは、オーダーメイドを中心にした家具作りを行う職人の遠藤 覚(えんどう さとし)さん。そんな遠藤さんとともに工房を運営するデザイナーの清水徹(しみず とおる)さんは、趣味である釣りも理由となって神奈川県から移住した。「釣りを理由にして移住する人も多いんですよ。スキーやスノーボードをする人にとっては山に降る雪の良さも大きな理由ですね」。
山に降る雪、山から流れる川とそこに棲む魚、時を経て暮らしを潤す地下水。東川町の水は、自然と人とをつなぐ大きな役割を果たしているようだ。
遠藤 覚さん(左)と清水 徹さん(右)の二人はともにスウェーデンの「カペラゴーデン」で家具作りを学んだ。気候風土や光が北欧に似ていたこともこの土地に移り住んだ理由の一つだと口をそろえる。
東川町では生まれてくる子どもたちに手作りの椅子を贈る「君の椅子」プロジェクトを2006年からスタートさせている。2025年度は「東10号工房」が担当。
「東10号工房」アトリエ内にはやわらかな光が差し込んでいた。
東10号工房 住所:北海道上川郡東川町東10号南6番地