四季の風情を失わないために

寄稿 森 朗

気象予報士・ウェザーマップ代表取締役社長

日本は四季の表情が豊かな国だといわれています。春は百花繚乱(りょうらん)、色とりどりの花が咲き乱れ、初夏には新緑が光り、盛夏の山では滴るように緑が生い茂り、秋には紅葉が彩りを添えます。そして冬は一転、白一色に覆われます。この、春と秋の色彩の豊かさと、冬の白一色、あるいは色味のない殺風景な景色とのコントラストが互いを引き立て合って、日本らしい季節変化を見せてくれるような気がします。もちろん、冬が長い北海道や、雪が降らない沖縄でも、それなりの季節の表情があります。これは、実際の風景の移ろいというよりも、住んでいる日本人の心の中に、どんな微細な変化でも見逃さない感性が棲みついているせいかもしれません。

今の風景


低山の雑木林に交じって咲くヤマザクラ。
この時季になると、そこにサクラが生えていることがわかる春の景色。


山の稜線に沿うように現れた虹。
夏の雨は雨粒は大きいが、局地的で短時間でやむことが多いので虹が現れやすい。

そんな季節ごとの景色を背後から形づくっているのが、水の循環です。春は気温の上昇とともに雨量が増加して土壌を潤し、雪解け水と相まって川の流量も増え、日本列島上の水の動きが激しくなって、植物の芽吹きを促します。夏にかけては、梅雨や台風のような大雨も降りますし、太平洋上から流れ込む大量の水蒸気と気温の上昇で局地的な激しい雨や雷雨も増え、日本列島を流れる水量はますます増加し、植物もぐんぐん育ちます。秋になると、大陸からの乾燥した空気が日本列島に流れ込むようになります。空気の乾燥と気温の低下によって、雨の強さも次第に弱まり、水の循環も徐々に停滞してきます。木々のエネルギー生産も落ちて、樹種によっては紅葉から落葉へと進みます。冬は大陸の寒気が流れ込み、日本海側の地方や山間部では雪が降ります。雪は積もればその場にとどまるので、水の循環はますます細々としたものになります。厳しい寒さに見舞われ、動物も植物もじっと春を待つことになります。

今の風景


湖から立ち上る霧と紅葉。
湿気と冷気が織りなす日本らしい秋の景色


雪をいただく浅間山と、麓に積もる雪。
少し標高が高くなればあちこちで見られる冬の景色。

日本列島は太平洋とアジア大陸に挟まれていますから、季節によって日本列島上で循環する水量が変わり、四季の変化がはっきりと現れることになるのですが、最近、気候の変化とともに水の循環も変わってきているようです。

地球温暖化の影響で、日本の平均気温も年々上昇を続けています。2024年は年平均気温が過去最も高くなりました。しかも、2位が2023年、3位が2020年、4位が2019年、5位は2021年という具合に、上位はほとんどここ数年が占めている状態です。空気には、温度が高くなるほど水蒸気をたくさん抱え込むことができる、という性質があります。このため、温暖化に伴って雨や雪の量も増えていて、ここ数年は年間の降水量も平年値を上回る年が多くなっています。気温が高くて降水量も多い、ということは、まさに気候がだんだん熱帯化してきているということにほかなりません。すでに、冬は暖冬が当たり前で、寒い時期が短くなっていますし、春はサクラとツツジが同時に咲いたり、秋は紅葉が遅くなったりと、春と秋が短くなって、夏がのさばるようになっています。このままでは雪も降らなくなって植生も変わり、日本の季節は熱帯のように乾季と雨季の2相になって、年中同じ風景になってしまうかもしれません。

将来の風景

西表島(いりおもてじま)の山はいつ訪れても緑一色。
いずれ本州の山も年中このような色合いになるかもしれない。

本州とは異なる種類の樹木が生い茂る石垣島のジャングル。
気候が熱帯化すれば、こういう植生が当たり前になる。

それでもまだ水が循環しているだけよいのですが、自然現象はそんなに単純ではありません。どこでも雨が多くなるわけではなくて、ある期間、ある地域で極端な大雨や大雪になって、別のところでは降らない、といった非常にアンバランスな循環になるおそれもあります。そうなると、降らないところでは植生が失われ、反対に降りすぎるところでは災害が頻発して、景観が損なわれることにもなるでしょう。何より、われわれの生活が危機にさらされ、季節を感じる余裕すらなくなるかもしれません。

悲観的なことばかり書いてしまいましたが、昨今の状況を見るにつけ、四季の風情が失われていく過程がすでに始まっているのではないかと不安になります。同時に、今からでもできることをしなければならないと思っている次第です。

森 朗 MORI Akira

もり・あきら●気象予報士。1959年東京都生まれ、兵庫県西宮市育ち。大学卒業後は日鉄建材工業(現・日鉄住金建材)に入社し、経理・総務・営業職に従事。趣味のウインドサーフィンや海好きが高じて95年に気象予報士資格を取得し、ウェザーマップに入社。TOKYO MX気象キャスターを経て、TBS「ひるおび!」などテレビ・ラジオ番組に多数出演するほか、全国で講演活動も行っている。2017年7月よりウェザーマップ代表取締役社長。著書に『異常気象はなぜ増えたのか―ゼロからわかる天気のしくみ』(祥伝社)など。

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