海と空と大地を感じ 自然とともに生きていく

海や陸の水が地球の気象に大きな影響を与えている

  • 永井

    近年は異常気象が頻繁に起きすぎて、もはやそれが当たり前のように錯覚してしまっているところもあるように思えるのですが。

  • マリンスポーツをしていると、環境の異常な変化が肌感覚で理解できます。

  • 永井

    たとえばどんなことがありますか?

  • 逗子の海でシュノーケリングをして、海中の景色や泳ぐ魚を眺めると、珊瑚礁があったり、沖縄で見られるような珍しい魚が泳いでいたりします。それは「死滅回遊魚」と呼ばれ、黒潮に乗って関東の海にまでやってきた熱帯の魚です。泳ぐ力の弱い稚魚が潮の流れに逆らえず、流されてくることが多いようです。普通は冬になると海水温が下がり、死んでしまうのでそう呼ばれているのですが、海水温が高い今では生き残るようになっているのです。珊瑚礁が増えれば、そこに棲みつく熱帯魚も増えるかもしれません。

  • 永井

    逗子の海の生態系が変わっていくかもしれませんね。

  • 生態系が変わるだけでなく、海水温が高くなると海面から蒸発する水蒸気の量も増えますから、雨や雪の量も増えて降り方も激しくなると考えられます。実際、東南アジアのように、日本などでも短時間にピンポイントで大量の雨が降ることが多くなっています。

  • 永井

    いわゆるゲリラ豪雨ですね。

  • 変動しにくい水温がこれだけ上がっているということは、下がるのにも時間がかかるでしょうから、海水温の上昇による影響は長引くだろうといわれています。

  • 永井

    『デイ・アフター・トゥモロー』というSF映画では、南極大陸の氷河が溶け、真水が海に流れ出すことで海水の塩分濃度が薄まり、世界の海の海流が急変して異常気象が頻発し、やがては人類が滅亡するのではないかという物語が描かれていました。もちろん映画ですから、エンターテインメントの要素が強いと思いますが、ああいったことは実際に起こり得るのでしょうか?

  • 1万年以上も前に地球上で大規模に海流が止まったという研究があります。氷河期を経て、地球の気温が上昇していく局面で、カクッと一気に気温が下がったときがあったのです。調べると、北半球にあった氷河が溶けて海に流れ込んでいたことがわかりました。地球には海全体を大きく循環する深層海流が流れています。塩分濃度が高いために海底を流れているのですが、流れが陸にぶつかると上昇し、また下降して流れるということを繰り返しています。ところが、氷河が溶けて海に流れ込んだときに、上昇しようとする深層海流にふたをするようにして流れを止め、それが引き金となって地球の海のすべての流れが止まったのではないかと科学者が発表したのです。南半球から北大西洋に流れてくる海流は熱も運んでいたのですが、その熱の輸送も止まり、上昇していた地球の気温がカクッと下がったのではないかと考えられています。

自然現象に抗おうとするのではなく
自然の振る舞いに身を任せ、
受け入れるという姿勢も必要かもしれません。――森

  • 永井

    以前、『めいすい2021』で草野満代さんと対談させていただいたときに「琵琶湖の深呼吸」という現象について話しましたが、その地球版のような壮大な話ですね。

  • ただ、氷河期の氷の多くは溶けてしまいましたから、映画のような現象はもう起こらないでしょう。今、地球に残っている氷河が溶けても、そこまで大きな影響は与えないだろうと考えられています。いずれにしても、地球の水が天気に大きな影響を与えていることは間違いありません。

長年、湘南や相模湾でマリンスポーツを楽しむ森さんは、眼下に広がる海でも温暖化による変化を肌で感じるという。

対談日はすっきりとした青空が広がる穏やかな天気で、風もなく沖合にはヨットが多数出ており、湘南方面に目を向けると江の島とその奥に富士山を望むことができた。

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